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Tech Blog #64 シリコンバレー・コミュニティから見る「生成型AIの今と、その利用戦略」



 ChatGPTがリリースされて以来、毎日のように生成型AIのニュースを目にするようなった。この喧騒とも言える状況を、Hype(誇大広告:実態を伴っていない)と感じる人も多いのかと思う。このブログでは、先月に参加したカンファレンスを題材に、スタートアップやベンチャーキャピタルで構成されるシリコンバレー・コミュニティが、どのようにこの生成型AIを捉えているのか?、そして今後の大局をどう予想しているか、これらをレポートしたいと思う。



Startup Grind Global Conferenceとは?


Startup Grindは世界最大規模の独立系スタートアップ・コミュニティだ。年次で開催されるGlobal Conferenceには世界各地からスタートアップや投資家が集まり、互いに「繋がる」ことで次のイノベーションを育成していくこと目的としている。このコミュニティの特徴の1つは「与えることを自己の利益よりも先に行う」というものであり、シリコンバレーの古き良き概念を継承しているコミュニティとも言える。イベント開催中にベンチャーキャピタリストやスタートアップ成功者のセッションも多く開催され、成功談やVCからの視点・アドバイスを、次のザッカーバーグを目指す多くの起業家達が真剣に聞き入っていた。


数多くのセッションを私も聞いたのだが、その中でも特に興味深かったのが「消費者テクノロジー:The New Consumer Tech Playbook」をテーマにした、Connie Chan(アンドリーセン・ホロウィッツのジェネラルパートナー)とHarry McCracken(Fast Companyのグローバル・テクノロジーエディター)による会話セッションだ。Generative AIの消費者セグメントでの影響度、それはビジネスチャンスか破壊者か、モバイル登場時にあった盛り上がりに似ているのか、など多くの興味深い話題が取り上げられていた。その一部を紹介しながら、Generative AI後のTechの大局を紐解きたい。



ConsumerセグメントでのGenerative AIの影響度は?


Connie氏は「Generative AIは新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があるが、全てのスタートアップやソリューションがGenerative AIの機能を持つ必要はなく、むしろスタートアップは自らの製品やソリューションがユーザーや顧客のペインポイントを解決することに注力すべきである」と語り、Generative AIありきの戦略を緩やかに否定する。しかし「Generative AIを活用することで、効果やコストパフォーマンスを10倍にする可能性もあり、スタートアップにとって大きなチャンスであることは確か」とも語り、つまり、スタートアップは自らのコア・コンピタンスを強化・補足する文脈でGenerative AIを活用すべきである、という点が同氏の見解のようであった。


Generative AIはOpportunity(ビジネスチャンス)なのか、Disruptor(破壊者)なのか?


この質問に対し、Connie氏はモバイルの登場時にあった盛り上がりと比較しつつ、Generative AIが持つ特異性を指摘することで解答した。同氏曰く、「モバイルはDistribution(流通)の変革であり、モノの分布のあり方を変えた。スマートフォンによって人々がつながり、App Storeで新しいビジネスやコンテンツが生まれた。一方、Generative AIはCreation(創造)そのものの変革である。ゲームチェンジングな要素を持ち、また副作用やデメリットも存在する」と語り、ビジネスチャンスと破壊の両側面を持つとの認識であった。


メモ: 実際、ここ数日でGenerative AIのDisrupt(破壊的)な側面も出てきている。例を挙げると、教育Platformの提供するCheggはChatGTPを自Platormに取り込みながらも収益が38%低下し、またプログラマーの技術質問に解答するPlatformを展開するStack Overflowもトラフィックが前年度比で14%低下するなど、既存プレイヤーやスタートアップ達に影響が出始めている。


Generative AIを使う上で、その技術の専門家になる必要があるか?


この質問に対しては「プロダクトやソリューションによってアプローチが異なる。多くのスタートアップは、自ら開発せずにGenerative AIを利用して利益を創出しているが、一方で独自のAIを作り上げ、それをAPIで公開して利益を出す企業も出てきている」とConnie氏は説明した。


メモ: Generative AIの利用方法という点で、一般企業の視点からもこの質問は興味深い。現在、Generative AIはMicrosoft(OpenAI)やGoogleのビックテックによる独自モデルから、Metaがリリースしオープンソース化したLLaMAやその進化版のVicuna-13B、またDatabricksがリリースしたオープンソースのDolly v2.0など、幾つかの選択肢が存在している。企業が考える利用用途やデータ・セキュリティへの方針などから、Generative AIを選定する必要があるだろう。

<MetaがLLaMAをリリースしてから僅か3週間で、オープンソース・コミュニティーはGoogleのBardと同等のレベルにまで引き上げたVicuna-13Bをリリースした>


1年前にAR/VR/Metaverse/Blockchainが盛り上がっていたが、現在の見解は?


一年前にHypeの頂点にあったARVR/Metaverse/Blockchainは現在、かなりの下火となっているので、この質問はMetaverse/Blockchain投資の先頭を走っていたVCであるアンドリーセンへの意地悪な質問ともとれるのだが、Connie氏は「依然として興味深いと感じているが、現在の焦点はAIにある」と笑顔で切り返し、また、会場へ「ChatGPTを使ったことがある人は? VRヘッドセットを持っている人は?」と2つの質問を投げかけた。結果、ほぼ全員がChatGPTを使っているのに対し、VRヘッドセットの保有率は半数ほどであったことから、「これはConsumerビジネスにおいてDistribution(流通)が如何に重要であることを物語っている。ハードウェアの流通には時間がかかるのが通例なので、iPhoneのリリース初期のように初期のエクスペリエンスが完璧ではなかったとしても、広く普及することで改善されていく可能性も十分にある」と答えた。


また同時に同氏は「Generative AIの素晴らしい点は、一般ユーザーに普及するまでの速度が格段に速い点であり、多くの人々がGenerative AIを活用して新しいことを始めること出来ている点である」とも付け加え、このコメントからも、AIファーストの投資スタンスが鮮明となった。


メモ: Harry氏から「Metaverse/Blockchainは最近どう?」と質問があった時、会場からは失笑のような反応があった。参加者からのこの反応は、Metaverse/Blockchainへの期待値を物語っているのかもしれない。


投資に対する哲学は?


Connie氏は、自身の投資哲学は「世界のトレンドを把握し、それをWestnizeする(西洋化する)アプローチである」と説明する。同氏は「人間の本質はそれほど変わらないので、人々の感情を揺り動かし、問題を解決できるようなものは、どこでも通用するはず」とも言い、この文脈から中国でのWeChatについて話題が移る。中国ではWeChatが支払いや認証など、さまざまな場面で使われるスーパーアプリとなったが、WeChatはデベロッパーにプラットフォームを開放することでこれを実現していることを説明し、「重要なのは、アプリの機能に注目するのではなく、ユーザーの視点に重きを置くことである。人々のニーズや利便性を重視したアプリが成功する傾向にある」ことを強調した。


メモ: イーロン・マスクのTwitterをスーパーアプリにする野望は、Connie氏の考えからすると、プラットフォームをデベロッパーに解放する必要があり、Twitterがそれを実現するには多大なリスクとコストが掛かり容易ではないと思われる。しかし、イーロン・マスクがTwitterの新CEOに、NBCユニバーサルのグローバル広告およびパートナーシップを担当するLinda Yaccarino氏を指名したことは、大きな起点となるのかもしれない。



景気後退や先行きの不安など困難な状況にあるが、スタートアップへのアドバイスは?


Connie氏の最初のアドバイスは、Distribution(この文脈では認知度を指している)を向上させるための広告戦略を見直しであり、対費用効果を考慮しての、従来主流であったFacebookやGoogleの広告の、他メディア、ラジオやローカル新聞などへの変更検討であった。


メモ: GoogleやFacebookの第一四半期の広告収入は緩やかな回復傾向にあると見られていたが、同氏のコメントからすると、まだ不透明なのかもしれない。


また、同氏はチーム全体に良い影響を与え良い雰囲気を醸成できる人材を採用することの重要性にも言及し、困難な時期においてチームの結束力やモチベーションを高めることはスタートアップの成功につながるはずだとコメントする。さらに、投資家は従来のような高い成長率をスタートアップに求めていない傾向があるので、この状況も、スタートアップにとってはチャンスとなり得ると付け加えた。


まとめ


今回のカンファレンスでは、このようなディスカッションや洞察を通じて、起業家や投資家に新たな視点を提供され、また、成功への道筋が幾つか提示された。


Generative AIはさまざまな業界や領域で変革をもたらす可能性を秘めており、その影響力は大きく、既存のビジネスモデルを変える可能性は大いにある。しかし同時に注意すべきは、Generative AIの持つデメリットの存在だ。プライバシーやセキュリティの問題、バイアスの影響など、技術を進化させる過程で解決すべき課題も多くある。今後、スタートアップ及び企業は、このような課題にも目を向け、倫理的な視点からも技術を活用する姿勢が求められるのかもしれない。

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