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Tech Blog #55 コンシューマ向けテクノロジイベント「CES 2023」レポート

更新日:2023年3月17日



 2023年1月5日から8日にラスベガスで開催された、CESに初めて参加してきました。CESは、コンシューマ向け技術のハードウェアやコンテンツが紹介される年1回のイベントです。


 フォーチュン・グローバル500に名を連ねる会社からスタートアップまで世界各国の企業がブースを展示しており、今年は173の国や地域から3200社以上の展示と11万5000人以上の参加者が集まりました。


 1960年代から開催されている歴史のあるイベントで、毎年ハイライトとなる発表がされます。今年の目玉はなんと言ってもEVでした。



メイン展示VEHCLE TECHNOLOGY


 多くのテクノロジが集まるCESの会場の中でも自動車会場は1番の盛り上がりでした。展示の中心は各自動車会社のEVですが、どの会社も1番強く打ち出していたアピールポイントは、自動運転車の中で楽しむエンターテインメントをどの会社と提携して生み出していく予定かという点でした。


 メルセデスベンツは、「今年北米に充電ネットワークを4000箇所以上設置する。またレベル2システム(部分的自動運転システム)に自動車線変更機能(方向指示器を押して追い越せば、代わりに車が車線変更を勝手にしてくれる仕組み)を追加する。」との現実的な発表の後半でエンターテイメント提携会社の紹介を行い「車内はリビングのソファではないので、より多感な映像体験や新しいメディアを提供していくことができる。そしてそれは『お客様をワクワクさせる』というベンツのテーマに合致している。」と締めくくっていました。


 エンターテイメントへのこだわりが現れていたのがブースです。CESで初お披露目された大きな犬のキャラクター人形が、車よりも目立つ形で配置されていました。犬は、ベンツ車内で視聴できるエンターテイメントを表現しています。


 ソニーホンダモビリティについても同様で、ソニーとホンダが組んだ理由はエンターテイメントを車に搭載するためでした。発表された車のバンパー部分にはモニターが設置され外部に情報を知らせる事ができるようになっていました。

 また、自動車会社と同様に人を集めていたのが、AWSとAzureのブースです。


 AWSについては、マセラティやLUCID(高級EVメーカ)がアレクサで制御できるとの説明付きの車展示がありました。


 また、ECU(エンジン制御するコンピュータ)開発をクラウド上で行い、テストができる仕組みと、クラウド上で仮想開発したコードを自動車の物理テスト環境に持ってきても動かすことができるテクノロジのデモに、多くの注目が集まっていました。


 閉じた研究所の中で開発するのではなく、世界中のエンジニアがクラウド上で一緒にECUを開発していること、またその技術がLinux Foundationの下でオープン化されていることに感銘を受けました。


 Azureはブースでプレゼンテーションを行っていました。プレゼンターは自動車ディーラーをデジタルツイン化したデモを見せていました。店に入り、映像上に現れたディーラーのAI営業マンと会話し、試乗もしていました。かなりの完成度で目を奪われました。プレゼンテーションの最後に「Azureはデモで実施した店舗のデジタルツインを必ず実用化する、Apple Storeのように小さな商品を扱うのであればその場で持ち帰ることもできる」と話していました。



Climate Tech話題の中心もEV


 Climate Techでも、話題の中心はEVでした。「Renewable Energy, Renewable World」と題した再生可能エネルギーについてのセッションでは、2022年の重要開発テクノロジはEVであり、普及が大きく加速した年であったと述べています。


 Panasonic‘s North America、MITSUBISHI ELECTRIC CORPORATION 、ハーバード大学の水素研究者出身のスタートアップ、エコヘッドホン製造スタートアップからそれぞれの登壇による4名のセッションで、非常に興味深い内容でしたので以下にまとめました。

  • 2022年12月、国際エネルギー機関(IEA)は、再生可能エネルギーの5年間の成長予測を、昨年の推定値より30%引き上げ。過去最大の上方修正を行った。 理由は、今や太陽光発電や風力発電のようなエネルギーが天然ガスや石炭よりもはるかに安くなったこと、さらに技術的な能力があるということを認識したからであると推測できる。

  • EVの普及は燃料の確保につながると考えられており、アメリカエネルギー省の2023年1月6日時点での発表によると、79のEVバッテリー施設がすでにUSA内にオープンしている。このようなEVバッテリー需要の増加に伴い、水素を使う事で再生可能エネルギーを発電したらそれを貯蔵して輸送できるテクノロジも出てきている。

  • アメリカでは労働力不足が深刻であり、新しい新興技術を生み出している企業はあるが、新しい技術を知る熟練した労働力を確保するための未来の教育ができていない。そのため雇用法を変えるべき。

  • EVバッテリーのサプライチェーンは非常に複雑でグローバル。必要な鉱物加工のノウハウはアジアにあり輸送の問題がある。さらにEV電池の価格は過去5年間下がり続けてきたが、サプライチェーンの混乱により、価格が上昇している。これは、電池に必要な鉱物の入手がいかに困難であるかを反映した価格である。

  • そこで、Panasonic’s North Americaでは技術を持っている会社と協力し北米に根ざした循環型サプライチェーン構築を目指している。レッドウッド・マテリアルズ会社と提携しており、その会社は使用済みとなったバッテリーを回収し、特許を取得したプロセスで処理し、そして新しいEV電池を作るための材料を提供してもらっている。また、EV電池生産の建設に伴う環境へのマイナス影響を最小化するために、原材料の採取から輸送まで、ライフサイクル全体を考慮し、どのくらい使うのか?エネルギー消費量は?製品のライフサイクルを通しての炭素排出量、さらにその製品を廃棄する際の排出量は?それを回収する方法はあるのか?製品ごとに確認を行い解決する。

 ここまでが、Climate Techセッションの概要となります。サプライチェーン再構築と生産ライフサイクルの可視化など具体的に述べられており事例の一端が見えました。



NASDAQ CEOが注目するテクノロジはAI


 CESを主催しているCTA CEOとNASDAQ CEOのセッション「GREAT MINDS: THE FUTURE OF THE 21ST CENTURY ECONOMY」では、NASDAQ CEOが注目するテクノロジを紹介していました。


 デジタルトランスフォーメーションを進めるためには、クラウドとAIに投資すべきと明言していました。理由は2026年にアメリカに到来する「少子化」による労働者不足であり、たとえ今経済が完璧ではなくとも投資を続ける下支えになっていると語っていました。


 量子コンピューティングやクラウドによって、AIに必要な膨大な量のデータの処理能力が上がることで、より知的な結果を導き出すことができるようになり、あらゆる分野に変化が起こると見ています。


 現在すでに、航空宇宙産業や医療診断の部分で成果も出ており、NASDAQが関連する金融分野において言うと、機関投資家は10年前からAIを利用しているが、個人投資家もAIを使った投資が当たり前になる。なぜなら今までは有用なデータをブルームバーグなどから買って分析していたものを、NASDAQは持っている膨大なデータを現在10億人以上の人がリアルタイムで利用できるようにしていると説明していました。


 また、NASDAQがAI投資し力を入れている分野は金融犯罪の防止で、今まで資金洗浄の監視には人海戦術的な方法を使っていましたが、テクノロジーを駆使する必要があり、そのためにはAIとクラウドが不可欠であると述べていました。


 犯罪者は1つの銀行に固執せず、銀行から銀行へ移動する傾向があるため、銀行は自分たちの銀行だけのデータを見ていても犯罪者を根絶やしにすることはできない。そこで、NASDAQはクラウドの力によって2500の銀行にデータを提供することを可能にし、新しい行動パターンとデータを組み合わせ効果的に犯罪根絶するソリューションを提供しているそうです。



会場その他


 CESの会場で大きな面積を占めていたのは、EVに続きヘルスケアやスマートシティでした。


 ヘルスケアで印象に残ったのは、介護系ビジネスに大企業が参入していたことでした。通信事業者のAT&Tは見守りサービス、HPは補聴器をアピールしていました。


 スマートシティで目についたのは、スマートトイレでした。自動でトイレットペーパ切れなどを検知することができるという製品でシンガポールのチャンギ空港にすでに導入済みであると話していました。


 また、EVと同じぐらい人が多かったのはスタートアップを集めたエリアでした。国ごとにこだわりのブースを作っており、お国柄が現れていました。日本のスタートアップエリアは製品名と説明を並べた看板がシンプルに掲げられており、分かりやすいのが印象的でした。また人だかりがしており嬉しい気持ちになりました。


 逆にイタリアは国旗をモチーフにおしゃれにまとめていました。またフランスブースが非常に大きく、国としてスタートアップに力を入れている事が感じ取れました。


 中国は地政学的な問題で出展が減ったと聞いておりその通りでしたが、インドの出展も少なく意外でした。



まとめ


 今回調査したCESのキーワードをまとめると以下になると言えます。

  • 自動車会社とエンターテイメント企業によるパートナーシップの加速

  • ECU(エンジン制御するコンピュータ)クラウド上での共同開発とオープン化

  • Climate Techのサプライチェーン構築

  • 投資拡大のためのデータオープン化

  • 金融犯罪撲滅のための銀行間データ連携

 分野は違えども全体を通して、言っていることは「オープン化しつつ、協力する中で競争力をつけていく」でした。


 CESのメインテーマは「BE IN IT(その中に身を置く)」でした。


 傍観者ではなく、夢中になって、感動し、BE IN IT(その中に身を置かない)と今の迫っている危機に対抗できない、そのためのネットワークを作る場がCESであると言っていました。


 我々もどんな企業と協力していく必要があるのか、選択次第で運命が変わることが実感でき身が引き締まる思いでイベント会場を後にしました。


 最後までお読みいただきありがとうございました。


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